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Uroki v kontse vesny 春の終わりの教訓

ソビエト映画 (1989)

ダンヤ・トルカチェフ(Danya Tolkachev)が主演するソ連時代末期の映画。これを少年の成長とか、裸体とかと絡めて紹介している事例があるが、それは一面だけを捉えた間違いで、「一般の市民が、突然集団拘束され収監される恐怖」を少年の目を通して描いている真面目な映画。ただし、出来は良くない。それに入手可能な英語版では、ビデオのDVD化しかなく、画質も悪く英語字幕の質が最悪だ(誤訳だらけ)。

時代は1964年。ある都市の中心部。映画を観ようと街に出てきた14才のヴァディクは、交差点を埋め尽くした群集に行く手を阻まれる。食料不足がひどい時代で、今日もパン屋の朝の販売分が売り切れてしまったのだ。しかも午後は入荷しない。怒りを煽り立てる一部の不満分子はいたが、残りの大半はただそこに居合わせただけの老若男女の市民。しかし、一斉に街区を遮断する軍。逃げ遅れた人は拘束され、殺風景な大部屋に閉じ込められる。何の説明もなく、もちろんトイレもない。牛乳の入った大きな缶が毎日1個置いていかれるだけ。暴動をきっかけに、大部屋から4人部屋の監房に移されてから長い囚人生活が始まる。ヴァディクは少年だが、扱いは他の大人と全く同じ。いろいろな過去をもつ同室の囚人との会話。そして、ようやく呼ばれた所長室では、自分に不利な文書に署名するよう強要され、拒否すると歯が折れるほど叩かれる。まさに恐怖政治だ。

ダンヤ・トルカチェフは、短髪のせいか年令の割に大きく見え、可愛いとは程遠い。しかし、一少年がこのような状況に陥ることがあったらどう感じ、どう行動するかを、それなりに演じている。ただし、演技が上手だとは、お世辞にも言えないが。


あらすじ

1964年5月、ヴァディク(ダンヤ・トルカチェフ)が、農場でサクランボを自由に食べているところから映画は始まる。彼はアパートに戻ると、母に、映画を観に行くといって出かける。デートなのだ。歩きながらも、楽しげなヴァディク。
   

街の中心に行くと、そこは、市民で埋め尽くされていた。交差点の角にあるパン屋の前で、店主が「同志たち、なぜ去らない? パンはない。立ち去りなさい」「朝のパンは、売り切れた。午後は入荷しない」と叫んでいる。しかし、ある男がショーウインドーのガラスを石で割ると拍手が起こり、飾ってあった肖像画を外して、「ニキータ・フルシチョフ! パンを寄こせ!」と言うと、「ユダヤ人と 共産党員をやっつけろ!」という掛け声も起きる。「奴は、白パンを、むさぼり食ってやがる!」。不穏な雰囲気だ。そこに街路を塞ぐようにバックしながら現われた軍の車両。逃げ惑う群集。ヴァディクはガールフレンドと逃げるが、捕まってしまう。
   

全員が連れて来られたのは大部屋。全員を中に入れ施錠、説明は何もない。こうしたことに慣れた男が、長い木の板を2枚壁に立てかけ、「ここが、トイレだ」と指示する。さっそく利用する女性たち。部屋の壁に板を立てかけただけなので、汚物も臭いも部屋に残る。しかも中は暑い。どうなるか不安に思う人、自分は党員なのにと憤慨する人。夜の10時に突然ドアが開き、布団が十数枚投げ込まれる。そして、朝、またドアが開き、大きな缶が1つだけ入れられる。中味は牛乳だった。これだけが朝食。しかし、コップ1つない。先に手回し良くトイレを作った男が、今度も采配する。テーブルに缶を置き、傾けた缶から流れる牛乳を飲ませるのだ。列を作る人々。その缶が貯まって5つになった頃、人々の半分は上半身裸、精神状態や健康状態にも異変が。そして、衰弱死が出るに及び、トイレ男が3度目に一か八かの行動に出る。ボールペンを片手にドアをバンバン叩き、覗き穴が開いた瞬間、そこにボープペンを突き刺したのだ。警防を持った軍人が雪崩れ込み、片っ端から殴りつける。ただ、それを機会に全員監房へと移された。
   

ヴァディクが入れられた監房には、他に3人の大人がいた。ベッドは2段が2つなので、元々4人部屋なのだ。体をきれいにと背中にコップの水をかけられるヴァディク。冷水なので、「わぁ! 背中は勘弁してよ」。「じゃがいもでも植えてあったか?」。母に手紙を書いて安心させたいヴァディクは、看守に90コペイカ(900円くらい)を渡して紙を1枚もらう。同居人は「暴利をむさぼる悪党め」。「明日はヴァリエフが当番だ。奴の方が安い」。どの途、高いのだ。他の印象的な会話は、「全員が、誤認逮捕だ」。「俺は、間違いじゃないぞ」。「何をした?」。「俺は、万年監獄さ。脱党者、テロリスト、破壊活動家、世界主義者、日和見主義者… それが、何を意味するか知ってるか?」。ヴァディクが「ううん」と答えると、「監獄に入れられっ放し。今回、何の罪だか全く分からん」。怖い世界だ。糞尿はバケツに入れ、1日1回捨てる(もちろん、自分で捨てに行く)。そして、消毒のため、床に生石灰をまかれる。
   

散髪とシャワーの有名なシーン。全裸になり服を抱きしめて散髪されるヴァディク。坊主刈りだ。その後、シャワーを浴びる。意地悪されて、冷水に飛び上がる。監獄の1コマだと思えば何の問題もないシーンだ。彼にとって良かったことは、最後にシャワー係が長ズボンをくれたこと。たとえ死体から取った物でもヴァディクには嬉しいプレゼントだ
   
   

再度、監房のシーン。先日買った紙に手紙を書いたヴァディクが、「手紙は、どうやって送るの?」と訊く。「お前は、どう思う?」と逆質問され、「さっぱり」。実は最後に分かるのだが、ヴァディクがせっせと出した手紙は1通も母に届いていなかった。ここで、同室人がこん睡状態で運び込まれる。「ボール紙を被せて殴ったんだ」。囚人が、看守の思うがままにされる恐ろしい世界。
   

ヴァディクは、ようやく所長の部屋に呼ばれる。「お早う。ヴァディク来なさい」とえらく優しい雰囲気。「僕は、なぜ、拘留を?」と訊くヴァディク。「女の子と映画に行こうとしてて、人ごみで広場が通れなくて、警察に捕捉されました」と訴える。所長は、「そんなのと付き合うから網にかかるんだ」「君のママは待ち続けとる。ずっと待ってるんだ」「可哀想なママは苦しんどる」「ママは、どう呼ぶ?」。「ヴァーディク」。「そのヴァーディクは何を食べ、何を着とる?」「それが、ママへの恩返しか?」「恥ずかしくないのか?」。聞いていて辛くなって泣くヴァディク。「二度としないな?」と所長。「誓って、もう二度としません」。
   

監房で。一人が意地悪く言う。「小僧が監禁されて3ヶ月経った。母親は来たか?」。ヴァディクは口汚く怒る。「この糞ったれ! お前の知ったことか! 放っといてくれ!」。他の2人は優しい。「バカ野郎。何てこと言うんだ」。「ヴァディク、気にするな」。別な日、看守が入ってきて「土曜市に、行きたい奴はいるか?」「1人だけ連れて行ける」と訊く。誰しも行きたい。「市場へ行けるなんて初めてだな」。「時代が変わったのさ」。しかし、現実はひどかった。期待に胸を膨らませて出て行った男は頭を白くして戻ってきた。「生石灰だ」「“土曜市に行く”は、奴らの悪ふざけだった」「廊下を歩いて行くと、奴らは叫んだ、“隠れろ、役人が来る!”」「すると、そこに穴があって、降りていくと生石灰を頭からかけられた」。もちろん生石灰なので、ひどい火傷だ。
   

ヴァディクの2度目の所長室。今度は雰囲気が違う。いきなり紙を渡される。それを読んだヴァディクは、「こんなことは言ってません」「何の組織です? 僕、組織の一員なんかじゃありません」。所長は「釈明書が必要だ。これは標準様式だ」「君は謝罪し、二度とやらないと誓う」「署名しろ」と迫る。「二度としませんとは言いました」、でも、「わが国の体制を破壊する非合法組織の一員だ、なんて言ってません」。「これはただの形式だ。分からないか?」「署名すればウチに帰れる」。ヴァディクは、「署名すれば、さらに罪が重くなる」と反論。さらに、「ママなら、署名するなと言います」。「なぜ、そう思う?」。「嘘ですから」。笑い出す所長。しかし、その後で、「ここは読んだか?」「ここだ。この隅に小さく書いてある」と言うが、ヴァディクが見ようと屈むと、頭を机に叩きつける。歯を折って床に倒れるヴァディク。
   

さらに監房での日々は延々と続き、絶望したヴァディクはベッドに横になって祈る。「神様、僕を 出して。天にまします全能の神よ。イエス様、僕をここから連れ出して」。この祈りが効いたのか、フルシチョフが更迭されたのが効いたのか、ヴァディクは所長室に呼ばれた。所長が交替している。そして、「今、分かったことだが、君の留置は手違いだった」。そして、「これが、君のファイルだ」と言って取り出し、「破棄する。もともと、何も起こらなかったんだ」と破り捨てる。怒ったヴァディクは、「あんたは破って終わり。だが僕は忘れない。償わせてやる。許しを乞わせてやる」と叫ぶが、「とっとと、出ろ!」と追い出されてしまう。
   
   

紅葉も終わりかけた中を、アパートに向かって走るヴァディク。ドアを開け、息子を見て卒倒する母。気が付いて、「私の坊や」と言って抱きしめる。しかし、ヴァディクは母を罵る。「なぜ、僕を守ってくれなかった?」「監獄にいる僕のことなんか、忘れようとしたんだ」「それが母親? なら母親失格だ」。母は、「あなたの写真を渡してビラも作ったわ。“この子を、捜しています”って」と言うが、ヴァディクは「嘘だ!」と叫んで、自分の部屋に閉じこもってしまう。
   

しかし、翌朝、新聞を取りに行くと、そこには自分が出した手紙が山になって届いていた。母は、監獄に入っているなんて知らなかったのだ。「ママ、僕をぶって」「ぶってよ、思い切り」「バカな僕を!」「言われたけど、信じたくなかったんだ」と泣くヴァディク。抱き合う親子。
   

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